もしかしたら。自分にとって祝福すべき出逢いは彼にとっては最悪なそれでしかないのかもしれない、と考えてしまうは寝ている時でさえ消えることのない善透の眉間に深く刻まれた皺がそれを証明しているように見るからだ。喜ぶべきか哀しむべきなのか。まさに字の通り、善透は寝ても覚めても自分を強く意識しているのだと喜びを見出せるほど達観出来ず、ならばと相手にされないよりはマシだろうかと自嘲を浮かべることさえ受け入れがたい現実は平常を保とうとするサビ丸を悪戯に追い詰める要因に過ぎない。(触れたくなってしまうのだ。善透を困惑させる原因が自分であることに、どうしようにもなく高揚してしまうのだ。自分のせいで刻まれたその皺でさえも愛おしくて、それが、深まれば、深まるほどに、善透の世界は自分で埋め尽くされていくようだと、このまま自分でいっぱいになった善透を傍らで見ていたいのだと、身震いどころか歓喜すら抱いてしまう始末なのだ。)
唯一が欲しい。絶対でありたい。尊敬している。敬愛している。でも、それだけでは足りない。全然足りないのだと善透にたいして募らせてきたものが形を変える様が恐ろしく、けれども有耶無耶で誤魔化しきれるほど忍耐強くはない自分を自覚している。自覚している分、己の中に渦巻く醜さが善透によって浮き彫りにされ、恐ろしいことにそれこそを倖せだと勘違いしそうになる自分がいてどうしようにも、救われない。(困ったことにと苦い笑みを浮かべるが、本当のところは困ってなどおらず、もし心の中を映す道具があったとしてそれを翳された場合、サビ丸の中で善透に傍にあれる倖福を嬉々として噛み締める執着めいた醜さが溢れていることだろう)
例えば、この出逢いを運命と名付けるとして。
自分と彼とを結びつける糸は何色をしているのだろうか、と思案することの愚かさを恋情と呼ぶことが赦されるのなら、どうかそれは赤色であって欲しい。
そうしたら、これ以上ないほどに善透という存在に盲目になれる。これ以上ないほどに彼という人を慈しむことが、出来るのに。
恋情は何を生み出すか(20091217)
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