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「下世話な、話。」そう云って、唐突に切り出した斑尾の言の葉に、修行中の弟に向けていた視線を外した正守はちらりと声の主を一瞥すると、「何のこと?」と、彼にしては酷く緩慢な仕草で何事もなかったかのように再び視線を、戻す。
正守から滲み出る煩わしいと云わんばかりの空気は、『声をかけるな』『俺に構うな』と拒絶を示しているが、(相手によっては、喧嘩を売られていると勘違いされてもおかしくないだろう、その態度。普段は呆れるくらいに上手く立ち回るくせに、そこに弟が絡むと、彼は弟のことしか考えられなくなる。弟しか見えなくなる。それこそ、盲目と呼べるほどに。崇拝と、名付けることを乞うてしまうほどに。方印か、あるいは血の繋がりか。良守の何が、そんなにも正守を惹きつけるのか斑尾には理解出来ずにいる。最も、はじめから理解する気などこれっぽちもありはしないのだが。)そんなものに動じるほど長くこの世に留まってはいないのだよと、小僧の相手はいい加減慣れたもので(そんなものに慣れてもちっとも嬉しなんてないのだけれど)斑尾は別段気にすることもなく、「あんたの愛情は、伝わりにくいのよ。」と、言の葉を続ける。「そんなに、それこそ舐めるほど見つめるくらい大切なら、良守に優しくしたらいいじゃない。追いかけて来いだなんて背中を見せていくら恰好つけても、あの子はいつまでもあんたを追いかけるほど弱くもないし暇でもないわ。」そんなこと云われなくても、あんたの方が一番理解しているでしょう?と、ずけずけと正守の急所を突くと、おまけと云わんばかりに追い討ちをかける。「優しくするだけ。それだけで、あの子はあんたを受けいれるわよ。簡単なことでしょう?簡単すぎて欠伸が出ちゃうくらいよ。なのに、あんたはそんなことすら出来ない。馬鹿ね。どうしようにもないくらい稀に見る馬鹿よ、あんた。」と、呆れる斑尾に「簡単だから、出来ないんだよ。それに馬鹿じゃなきゃ、あいつの『兄』ではいられないからね」と、自嘲する響きの胡散臭さと、きたら!(愛が深まりすぎると人は壊れるてしまう、という。今までそんな多くの彼等を見てきたけれど、彼ときたら、自ら進んで壊れたがっているように見えるのだから恐ろしいわと、斑尾は、身震いする。壊されることを望んでいる、そんな愛を『愛』なんて呼べるのかしらね?『愛』なんて抽象的なもので終われるのかしら、ね?)
長いこと人間の傍らで彼等を見守り続けてきたけれども、彼ほど理解不能なそれに出逢ったことはないわと、斑尾は(たったひとりの人間による)消滅願望を抱く正守に声をかけたことを少しばかり、後悔してしまった。(馬鹿に好き好んで関わる馬鹿が、結局のこと、一番の 馬鹿なのね。)





愛は美しいだなんて愚かな勘違いは、終わりにしましょう?(20091219)