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「喰えたもんじゃねぇよ 奴は」と。噛み殺すような狂気を浮かべるでもなければ、いつもの如く無防備に撒き散らされた殺意に過敏に反応するでもなく。本人は気づいていないのだろうが、おどろおどろしい言葉とは裏腹に不似合いすぎる微笑を浮かべる高杉の醸し出す雰囲気は穏やかでいっそ物騒すぎる。らしくもないしおらしさを装う姿に寒気が止まらぬ坂本をよそに「あんな腐った幕府に命を預けるなんざ自分の価値ってもんを知らねぇ 馬鹿な男だ」と言葉を続けるのだからたまったものではない。普段の高杉の動向を知っている輩ならば、誰もが頭を抱えてて熱病か何かに犯されて頭がいかれてしまったのではないかと勘繰ってしまいたくもなるだろう。もしかして夢を見ているのだろかと現実逃避をしてみるがそれこそ無意味であり、ならば不気味すぎる映像を捉える視覚は果たして正常に機能しているのだろうかと己の異常さを考えてしまうのも自然の摂理である。それくらいに異変であり異常であり、疲れているのかと幾度となく瞳を擦り瞬きを繰り返すのだが、眼球が映し出すそれは一向に変わる気配はなく不自然に穏やかな微笑を浮かべる高杉を映し出している。置いてけぼりを喰らったように取り残されている坂本を尻目に「あの男の全てを奪い尽くしてみたい」などと嬉々として語るのだから気持ち悪いこと この上ない。あまりの衝動に視覚どこか聴覚までもがおかしくなったのだろうか。強い衝撃を受けると異変を齎すというが、高杉がおかしいのではなく坂本の人格が破綻してしまったのか あるいは。考えたくもないが高杉の云う「男」の存在が高杉の人格を揺さぶるほどの影響を与えたというのか。そうでなければ崇拝する『先生』以外にあの高杉が手放しで褒める人間を坂本はまず知らない。抱いた志を委ねたいと願う輩など不要だと斬り捨て断言する最も世界を嫌悪する男が繋がりを求めようとしている。そればかりか何があっても揺らぐことのない決意を抱く男の世界をいとも簡単に塗り替えようとすらしている。あの高杉を、あの高杉を だ。なんと薄ら恐ろしい男がいたものか。常に無価値と生きる男がそこまで気にかける 男。真撰組局長 近藤勲。
心の中で静かに唱える男の名は近い未来に坂本の世界すらも変革するであろう甘い韻と未知の匂いが した。
誰かの信念の色を変えるだなんてそんなことあんた 出来ますか?(20100212)
*補足 / キスからはじまる恋をしようの少し前くらいの話。高杉の異変(笑)を肌で感じて近藤に興味を抱く 坂本。