はじまりを覚えているか。お妙をかけて橋の下で対峙したあの瞬間に背筋を駆け上った震えが興奮だったのか、それとも強者のそれと出逢えたことへの歓喜だったのか、あるいはあの時点でお前へと抱く執着を肌で感じ取っていたのか。そこらへんの感情諸々は短いようで長い付き合いの中で忘れてしまったが、あの時、振り翳した木刀が描く筈だった美しい弧を真正面から受けることが出来なかったことを少しだけ悔やんでいると云ったらあのゴリラはどんな顔をするだろう。あの日の続きがしたいと、真剣勝負をしたいのだと云ったらあのゴリラは何と云うのだろうか。腐れ縁となった今ではそのチャンスもそうそう巡ってはこないだろうということは確かなので今頃になって随分と惜しいことをしたと残念がっても遅いのだけれども(あの時はああするしか上手く話が纏まらなかったわけだからしょうがないと云ってしまえばしょうがない わけで)その場は何とか収まったが結局はまるっきり無駄であったわけだから、未だに残念なことをしたと抱いてしまう未練に近い感情が拭い去れない。男っていうのは不器用な生き物でよ。言葉を交わすよりも剣を交えたほうが通じるものが多かったりするんだわ。銀さんね、あの日からお前のことが気になってしょうがねぇの。お前を知りたいんだよ。なぁ 近藤。どこぞの嫉妬深い副長さんじゃねぇんだから銀さんは無謀なこと云うつもりはねぇよ。一から十まで全部お前のことを教えろとまでは云わねぇよ。でもね、知りたい。お前を知りたい。お前の本質を肌で感じたい。だからさ、やっぱりお前という人間を知るには一度本気で剣を交える必要があるわけなんだよねと想うわけ 銀さんは。なぁ 近藤 はじまりを、あの日の俺達の対峙を覚えているか。忘れたなら忘れたでいいし忘れたいならそれもいいよ。銀さんも大人だしね。未練たっぷりなわけだけど素知らぬ振りして諦めることだって出来るからね。でも、もし、覚えているのなら。あの日の続きを、殺し合いをしようじゃないか。それでよ お前の知らないお前を銀さんだけに見せて。多串君や総一郎君にも踏み込ませることのないお前の抱く美しい志って奴をお前の命の色を俺だけに教えてくれよ。そんでもって俺達のはじまりって奴をもう一度やり直して記憶って曖昧な映像に鮮烈に描きかえてやろうじゃないの!





愛しいっていう名の殺し合い しませんか(20100221)