愛とは何か。親愛、友愛、情愛。様々と存在する愛と名のつくものを限りなくあげてみたところで、そのすべてを惜しみなく与えようとするスグルにたいしてテリーはそのどれもを望んではない。存在する数多の愛は美しさに彩られながらも同時に孕む悪意に踊らされ矛盾の一途を辿っているにも関わらず、それでも誰もに平等に隔たりなく注がれるスグルの真綿で包み込むような優しいそれはテリーの中の巣食う浅ましさを悪戯に増徴させるのだ。故に それで満足しようと零れ落ちそうになる吐息すら飲み込んで受け入れる愛と素知らぬ顔をしながらそれ以上を貪欲に望もうとする誘惑との葛藤は、焼け付くようなジレンマとしてテリー自身を蝕み続け、支配的であり絶対的な欲求は本能に従うかのようにただひとりを欲し続けている。こんな愛など知らない。飢えたきった野獣のような狂おしさを抽象的な言葉で片付けたくはない。最早それを愛とは呼べない。愛とは呼ばせない。ならば、愛とは何か。色は、温度は、それに 形は存在するのか。感情と心臓は対等であるのか。愛と不変はイコールで結ぶことは可能か。可能であるのなら君の為に投げ打った命と引き換えに君の全てを手に入れようと躍起になる執着を何と名付ければよいのか。狂気か、あるいは歓喜か。嗚呼 愛とは。愛とは何か。スグルを想って零れる吐息を、盲目なまでにスグルを映す眼球を、その名を紡ぐたびに痙攣するように震える声帯を、それこそを 愛と呼ぶのか。





握り潰せない 心臓(慈しむべきそれはたった一鼓動で私の世界を支配する)(20100312)