「追いかけてほしいのですか?それとも 貴方が追いかけたいのですか?」
誰を、とは云わない。云わずとも知れた相手との一切の無駄を省いた遣り取り気に入っている正守ではあったが、滅多なことでは正守の私生活に口出しをしない聡明な彼女が一線を引きながらも境界線に片足を踏み入れたことに顔には出さないが驚きを隠せずにいる。誰かさんに想いを巡らせるあまり浮ついていたか。あるいは、常に完璧であろうと背伸びをしすぎて何らかの失態を犯してしまったか。もしくはその両方であるのかもしれないと瞬時に思考を巡らせたのは想い当たる節があるからだろう。「誰が」とも、「何があった」とも彼女は聞きはしないが何分的確な質問なだけに分が悪い。それでも「どちらでもなくてどちらでもあるのだろう。そうだね 出来るのならば独り占めしたいのだけれどもね」とお決まりの台詞で返すものならば呆れたような、あるいは何かを諦めたような小さな溜息を零しながらも恋焦がれる男の背中を押してくれるのだ。(勿論、誰にとは云わない)常々、彼女のような聡明であり優れた人間が自分の傍にあることに不憫さを感じる正守であったが、同士としての彼女の存在は頼もしいものがある。もしかしたら、それが隙を見せようとしない男に対しての彼女なりの甘やかし方(あるいは譲歩の仕方)なのかもしれないと考えてしまうのは自分の悪い癖だと理解しつつもあながち間違いではないのかもしれない が。
たぶんね きみっていう人間のそういうところが好きだよ(20100314)
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