見開いた眼球は少しだけ水分を帯びていた。それでも、一点の曇りなきそれは凛とした七色の光沢を刻んだまま輝き続け無情にも懐かしいあの人を想い出させ、いとも簡単に高杉の心臓を鷲掴みにするばかりか心臓すらも締め付け少しだけ切なくもさせる。それは、分りきっていたことだった。一目見た瞬間に感じた血潮の疼きに予感すら感じていたのだから、はじめから抗える筈すらなかったのだと無駄な抵抗を繰り返していた己を今更ながらに嘲笑うことで均衡を保とうと無駄な努力をする。欲っしたら負けだと自分を戒めもしたが理性は功をそうさない。まるで運命のようだと高杉は想う。出逢いを運命と呼べるのなら捕らわれの身でありながらまっすぐと自分を見つめ続ける男を間近で覗き込むこの距離の近さは、最早奇跡としか云い様がない。事実と向き合うことを拒み続けていた男にはじめから救いなど訪れるはずがないことを近藤は知っていたのだろうか。だからこそ、密かにうろたえる高杉を尻目にこの男はこんなにも落ち着き払っていられるのだろうか。自分を映し出す水分を帯びた眼球が身震いする程に美しすぎたるせいだと無理やりに理由をこじつけて獣のように昂る呼吸を整える。高杉は、男が抱き続ける志を圧し折り破壊の限りを尽くしたいと心から願い自ら絶望に直面する瞬間を待ち望んでいる。近藤が息を殺す瞬間を今か今かと心の中で指折り 数えている。





殺したい 呼吸(わたしを映す貴方の瞳はわたしだけのものであるのだと 叫ばせて)(20100317)