彼等の愛に耳を傾けてはいけない。彼等の言葉に容易に同意してはならない。彼等の絆を引き裂こうなどとは考えてはいけない。何故かと問われれば答えは明快すぎるほどに簡単なもので、彼等が彼等として生きる空間は彼等だけのものであるのだから。彼等は彼等だけのルールに従って生きている。彼等だけの約束に守られて呼吸をしている。で、あるからして割って入り汚すものは誰であろうとも彼等にとって敵としか認識出来ない現実の構図は、真綿で包まれた愛しい子のような甘さで彼等の世界が閉ざされていることを意味している。強固であり諸刃でもある束縛を唯一崩せる者は馬鹿げた世界を作り出した彼等だけであることに蓋をして彼等は今日を生き、繭の綻びをよしとしない彼等が望めるものは少なすぎて、逆を云えば多くを望んだ瞬間に彼等は彼等としての明日など生きてはいけまいのだろう。この禁を破ったものは誰であろうとも呪いという名の祝福を受ける。「普通」という名の世界の掟は彼等にっては毒でしかありえない。故に、そんな彼等を静かに見守り続ける自分は彼等にとってその他大勢のひとりであると同時に、彼等という世界の牢獄を哀れむ監視者としか映らないのだろう。例え、世界が滅びの産声をあげようがそれでも彼等の世界はきっと何も変わらない。そうして、何も変わらないと想い込んだまま崩壊へと傾れ落ちてゆく彼等を見守り続ける自分もきっと変わりはしないのだ。





なにもかわらない はなし(20100619)