私が出来ることは少なすぎて、いくら探したところで私を置いていく彼を見つめることしか出来ないのでしょう。
唯一、分かっている事といえば置いていかれる私は彼にとって健やかなる安らぎを与える場所にすらなれないということなのでしょう。追いかけられていた彼に置いていかれ、今更ながらに手を伸ばし彼を捕まえようとする女に彼は愛想をつかすでしょうか。それとも哀れと想い慈悲を、赦しを、与えてくれるのでしょうか。貴方は強くなりたいと云い決意をしました。それは、誰の為の強さで何の為の強さであるのですか。貴方の求めた強さが私の脆さを見放すのですか。そして、私の弱さが貴方を傷つけるのでしょうか。「またな」と云って去りゆく見慣れた筈の背を追いかけます。知っているようで知らないそれは終わりを意味するのでしょうか。それとも、新たなる始まりの幕開けなのでしょうか。良守、あんたの小さかった手が震えながら私に触れたあの日を覚えていますか。泣きじゃくりながら「御免なさい」を繰り返したあの時間を。私とあんたに刻まれた過去を。あの日抉った傷は未だにあんたの心臓を苦しめるのでしょうか。呪縛となってあんたを苦しめ続けるのでしょうか。求めるのは、それ故の 強さ?それとも、それ以外の強さ?傷を晒し悪戯に傷つけあった幼かったあの頃よりも成長し逞しくなった背を見つめ続けます。あの頃以上に遠くなった距離に、いつまでたっても届かないのはこの手だけでしょうか。私とあんたの痛みを締め付ける哀しい夢は消えないままなのでしょうか。良守、良守。あんたは知らないだけで、たった四文字の羅列の支配は私の脳髄を焦がすのでしょう。永遠と覚めない夢のように私を燻り続けるのでしょう。
おいていかれたおんなの はなし(20100619)
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