傷つくだけなら簡単なのに。なのに、傷つけられても救おうとするんだから 救われないよ。
そんなロイド君の優しさが酷く憎らしい時があります。あの子供は自分の持てるもの全てを与えてしまうばかりか誰かの痛みですら受け入れてしまう子なんです。それは彼の美点であるのかもしれないけれど、時として無自覚の暴力とも呼びませんか?何故ならば、彼は悪戯に傷を重ねるだけで、なのに膨れ上がるばかりの彼の傷は癒えることもなければ塞がることはないんですから。それでも。それでも、赦しを得られた あの日。浮き出た鎖骨が痛々しい子供が差し出した手があまりにも暖かすぎて、俺様は涙を堪えるのに必死でした。忘れることなど出来やしないそれは救われたと同時に、彼に己の罪を背負わせた瞬間でもあったからです。彼に咎を与えた自分自身を赦せないまま御免と謝罪の言葉を口にするには覚悟が足りなくて、代わりに有り難うと今にも消え入りそうな声で囁いた俺様の呟きを野生児でもある彼の耳は聞き逃したりはしませんでした。黙って微笑んだ彼の微笑を生涯忘れないでしょう。忘れることなど出来ないのでしょう。あの日、俺様が刻み付けた彼の傷を想い描くことで何かが変わるわけでもないのにロイド君と共有した痛みは俺様を慈悲にも無慈悲にもさせます。膿んだ傷を剥き出しにしたまま微笑む強さを恨めしく想いながらも彼の苦しみが俺様を救いに導くのです。そして、ロイド君だけが痛みの国に 取り残される。傷つくだけなら簡単なのに。傷つけることで、傷つけられることで全てが終わるのならあの頃よりも脆くなり強くもなった俺様が、彼の代償と引き換えに全てを受け入れるのに。彼と共に過ごすことでようやくその覚悟を手に入れたというの に。
それでもロイド君は誰かを救おうとするからいつまでたっても彼だけが 救われないままなんです。
その傷が誰かの救いになりましょう(20100619)
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