例えばの話、君を苦しめるものをひとつずつ消すことが出来るのならば、戦いを嫌う彼を駆り立てる悪意が消えて、王族という重圧が消えて、平和に満たされた彼の世界を脅かす俺が一番最後に消えるべきなのだろう。彼を穢し続ける想いを孕んだ指先で彼に触れることの禁忌は、彼にとっては耐え難い屈辱である筈なのに自分よりも誰かを優先する彼の優しさがそれを肯定しまう未来の訪れが只管に 恐ろしい。なのに、皆のスグルが自分以外の誰かのスグルになる瞬間を何よりも嫌悪することの矛盾が積み重なったとき、果たして呼吸を続けることは可能なのだろうかとテリーは不安を覚えてしまうのだ。
気が遠くなるほどに美しい青空の下、テリーと名を呼んで笑うスグルがいる。命と等しいマスクに触れそうになるこの指は、彼のテリトリーを侵害するギリギリの距離を保てているだろうか。それとも、差し出された肉厚の手に縋りつくことは赦されるのだろうか。欲塗れの獣を飼いならしながら微笑を形作るそれを、友情と呼んでくれるのだろうか。彼の呼びかけに答えるようにスグルと名を呼ぶ。スグル、スグル、スグル。確認するように何度も何度も君の名を呼ぶ。紡ぐたびに彼への思慕に溺れる錯覚に震えが止まらない。スグル、スグル、スグル、 スグル。彼を侵食しようと縮まる距離に反して、彼を想い続ける時間が止まらない。スグル、恐ろしいほどに艶やかな青い色彩に全てを暴かれるそんな夢を 見る。
いとしさにころされる(20100619)
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