「今日で終わりです」 と。世間話をするかのように淡々と別れを告げる彼の微笑みの中に未練と云う二文字を見つけることは難しい。あくまで無表情を象るそれに少しでも感情の揺れを感じることが出来たならばそこに付け入ることが出来たのにと惜しく想う反面、曖昧であった関係性に一区切りを打てたことに形容し難い清々しさを覚えてしまうのだからどうしようにもない。別れの言葉を切り出す美しい黒曜の瞳に「楽しかったよ」「倖せだったよ」と告げれば、いくばくかの感情を滲ませながら彼は端整なそれをくしゃりと歪めるだろう。自分達の間に愛があったかのかなんて今更で、ただただ共に過ごした時間を切なく想いながらもきっとそれすらも美しいと感じるのだろう。涼やかな瞳の中に歪にゆがんだ自分の顔が映し出されている。締め付けられるような痛みと解放感で引き攣る唇で彼の名を紡げば、その瞬間に彼の世界は終わるのだろうか。それとも自分の中の大切な何かが壊れるのだろうか。長く生き過ぎても分からないことだらけの世界で唯一つ理解出来ることと云えば、言葉を発し終えた瞬間に俺の隣に君がいなくなるということぐらいだ。嗚呼、さようなら。友情と云う名の蜜月よ、さようなら。(きみが、すきでした。)(哀しいくらいに ずっとずっと 好きでした。)瞼を閉じて共に過ごした歳月を想う。この先、似た傷を負った二人にどのような結末が訪れるのかは知れないが、それでも共に過ごした時間は確かにあったのだと震える眼球に優しい彼の微笑を刻み付けておこうと 想う。





愛を捨てなければ(20100709)