優しい人なのか怖い人なのかなんて分からない まま。それでも。記憶の中のあの人は、時折想い出したように零れ出る断片のような私の言葉に静かに耳を傾けている。まるで、瞬きすら忘れてしまったように。私の些細な変化すら見逃さないように。まっすぐと、焦点を合わせて。その度に、私と私の心臓に刺のような痛みが突き刺さることをあの人は知っていたのだろうか。幾重にも幾重にも突き刺さるそれが痛いのか苦しいのか嬉しいのかすら理解する余裕のない愚かな私は、あの人の瞳にはどんな風に映っていたのだろう。失った今になって唐突に理解する、この感情の置き場を。喪失する未来を。虚無を象るあの人には見えていたのだろうか。分からないことだらけの世界で理解したことは、どこを探してもあの人はいないということ。喪失と共に置いていかれてしまったということだけだ。私の心臓を揺らす焦げ付くようなあの人の眼差しは、いつだって恐ろしいくらいに真っ直ぐでそれが少しだけ恥ずかしくてくすぐったかったと云ったら。告げることが出来たなら何かが変わっていたのだろうかと考える。何があの人を変えたのだろう。誰が私を変えたのだろう。不可思議と感じない「怖さ」という二文字に恐れを抱いたのは。理由を欺瞞で掻き消したのは。執着に満たない情熱に心地よさを感じてしまったの は。最期に差し伸べた手で私は何が掴みたかったのだろう。何を、掴みたかったのだろう。あの人が崩れ落ちた意味を理解している。(嘘。どんな理由をつけても理解出来ない自分がいる。)理解しているからこそ、始まらないまま終わってしまった物語にピリオドをつける日は永遠に訪れないのかもしれない。だって。砂粒のように消えてしまったあの人の触れた指先が痺れたまま、あの人が最期まで欲し続けた「心」は今もなお私の指先で熱を灯したまま燻り続けて いる。





行き場を失った 星(20101005)