「近づかないで欲しい」
突如、そう告げたココさんは毒のにじんだ顔を手のひらで覆い隠しながら数歩後ずさり談笑していた僕から距離をとる。二歩、三歩、四歩五歩。念を押すように「動いては駄目だよ」と再度告げ、僕が傷つかないようにと安全な距離を保つために遠ざかってゆく。毒に染まるココさんの笑顔はこんな時にまで優しく 哀しい。「君を傷つけたくないんだ」と微笑む姿が痛々しい。滲んだ毒が地面に滴る音が聞こえる。嗚呼、この人は。この人の傷は、いつだって視覚からも聴覚からも全ての感覚から隠せはしないのだ。哀しくないわけがないのに、それでもココさんは 微笑む。まるで、誰にもその苦しみを理解させないようにと取り繕うみたい に。





だから、僕は手を 伸ばした(ひとりじゃなくふたりで傷つく その為に)(20120112)