あの人の為に尽くすことが先輩の全てだった。裏切りの発覚により置いてけぼりをくらった先輩の無気力と荒れを繰り返す情緒不安な姿を見るたびにそんなことを考えてしまう。何故、あの人は先輩を残していってしまったのだろう。連れて行けなかったのか、連れて行かなかったのか。あの人は先輩の好意に気づいていたのだと 想う。少なくとも俺の瞳にはそう映っていた。盲目というハンデを背負いながらも隊長格にまで上り詰めた人が、あれだけダダ漏れで丸わかりの好意に気づけないほど鈍いようでは上手い説明などつくはずがない。おそらくは、理解してあえての 拒絶。二人にしか分からない距離感が二人を隔てそれをどうにかして取り払おうと躍起になった結果、先輩はより一層あの人にのめり込み崇拝への道を辿ってしまったのだろう。先輩にとってのあの人が全てであったが、あの人にとって先輩はあくまで部下でしかなかったのだろうか。単純に邪魔であったのか、はじめから頭数にいれていなかったか。あるいは、あの人もまた先輩を大切に想っていたからこそ置いていく選択肢を選んだのか。邪推しようと想えばいくらでも出来るがその真意を探ることは不可能で、結局のこと真相はあの人の抱えていた闇の中にしか ない。
思考に囚われていたのだろう。気づけば机に屈ぷし浴びるように酒を飲み酔いつぶれた先輩の呻き声が隣から聞こえる。未練混じりの溜息は先輩の傷の上に新たな傷を描き、それは癒えることもなければ救われることもなく蓄積され続ける。許容量を超えてもなお募り続けるそれに終わりなんて訪れないのだろう。これほどまでに誰かを慕うことの出来る先輩にほんの少しだけ羨望を覚えたが、それも瞬きで消える。何故ならば。膿んで腐った傷口から何も生まれはしないのに、皮肉なことにあの人に心を預けた先輩の執着だけは永遠と 死ぬことはないのだから。(それでもあの人を想い続ける先輩は倖せだと 笑うのだ。腐臭の庭はあまりにも濃く深い色をしていて両目を凝らしたところで何一つ 見えやしないのに。)





腐臭の 庭(20101012)