俺の苛立ちを感じて、季節よ。頼むから当たり前のような顔をして訪れな!と毎度の如く理不尽な苛立ちを募らせる宮田だが、その行為こそが既に理不尽であるという矛盾に、美麗な顔を引き攣らせる本人自身が気づいていない。(街中を歩けばそれこそ十人中十人が振り返る美麗なそれには青筋が浮いているのだが、熱視線を送る彼女等には、なんのその。それさえも魅力的に映るのだろう。寡黙な佇まいが宮田という男の色香に拍車をかけていることに、本人、まったくの無自覚なのである。)一体何がそんなに気に入らないというのか。常日頃、過多なストレスと共に現代社会を生きる男。宮田一郎。何かにつけ敵の多い彼ではあるが、その理由の大部分はとある人物に集中している。その人物を抜きにして宮田という男を語ることは不可能であると断言出来るほどに、日常生活の些細に至るまでに浸透しすぎている(ということを、宮田は意地でも認めようとはしないが、かえってそれが肯定していることを、当の本人とその人物以外の誰もが熟知している)。切っても切っても切っても切っても切り離せない関係。因縁。ライバル。彼等を形容する言葉は多種多彩で、既にネタの宝庫とかしていることを一向に認めようとはしない宮田だが、それでも、確かにその人物を中心に宮田の世界は巡っているのである。と、いう。そんな前振りのもと冒頭に戻る訳なのだが、宮田は苛立っていた。とてつもなく。原因は毎年訪れる殺意を覚えるような甘ったるさ。暦は二月。目につく至るところにハート乱舞な恋の季節。自覚はないがチョコにときめき、恋心を燻られ、そわそわと誰もが落ち着かない浮ついたこの季節をたまらなく毛嫌いしている筈の宮田自身が、上の空のそわそわしっぱなしであるからなのだ。(ちくしょう!去年もその前もその前も・・・!あいつがチョコをもってくるのを待ってやっているっていうのにシカトかよ!何様のつもりなんだ?!あぁあ?!いい身分じゃあねぇか!)と、ライバルである一歩に不戦敗中。彼から一度たりともチョコを貰えたことのない宮田は苛立ちのピークに達していた。山ほどという表現通り、女性からファンから何からと大量のチョコを渡されてはいるが、宮田が心の底から求めるものはただのひとつ。それ以外は、アウト・オブ・眼中と見向きもしないのだというのに!なのに、あいつは・・・と意味不明な嫉妬と相変わらずの理不尽さを発揮しながらも、好敵手とうたわれる相手からのチョコを求め続ける宮田は、乙女よりも乙女すぎる一歩よりもオトメンであり痛々しい。だが、そこは美形。そんな阿呆らしさすら余裕でカバーする美貌という生き物は得である。だが、そもそもである。そもそも男が男にチョコを渡すというイベントの趣旨を初歩から間違え、友人というラインも微妙であるというのに恋人ですらないライバルにチョコを求める前提からしておかしいことを宮田自身理解していない。ましてや「何様」ときている。何様と怒りをあらわにする宮田こそが「何様」である。彼特有のジャイアニズムを発揮し、全ての責任(?)を一歩に押し付け、ひとりで焦れてひとりで焦ってひとりで悶々としてひとりで項垂れること忙しく、物思いに沈む宮田を鷹村あたりが見かけたら、いつもの如く一歩関連で焦れているのだろうと察しられ(オイ)玩具を見つけたと云わんばかりに嬉々としておちょくるこだろう。それくらいに宮田は期待と苛立ちと、甘い匂いに触発されてかほんのりとしたなんとも形容しがたい空気に浮ついている。(幕之内よ!早く来い!早く俺の胸に飛び込んでこい!)14日も残りわずかとなったと深夜。いつものように寒空の下、防波堤で一歩を待つ宮田は、今年もまた不戦敗の記録を更新することを幸か不幸か まだ、知らない。





不戦敗、オン・パレード(20110217)