頭上にはまんまるお月さま。珍しく雲もない夜空は綺麗で、ぼんやりと瞬く星々に見惚れていると「木村さん見て下さいよ!今にも飛び跳ねそうな兎が見えますね」と、月を指さしながらほんわか柔らかい微笑みを浮かべる無邪気で無防備な男が、ひとり。ただでさえでかい眼球が淡い月の光を反射する様に見惚れてしまいそうになる自分を叱咤し心の中でそっと溜息を、ひとつ。(なんだって、まぁ。このお子ちゃまは。)苦笑いのような、呆れの含んだ諦めのような、ムードとかロマンとかそういった色恋にはてんで苦手とする青年の邪気のなさに、よからぬ感情が芽生えてしまうのはきっとお約束ってやつでしょうよ。微妙な感情が瞬間的に全身を駆け巡りはしたが、いい加減慣れってやつですかね。年相応に見えぬ幼い容姿の彼の頭をポンポンと叩いて、「流れ星でも見えたら最高だな」と、青年の喜びそうな言葉を紡げば、案の定「わぁ!お願い事しなくちゃいけませんね」と、楽しそうにはにかむのだからしょうがない。うん。しょうがない。無垢で可愛い赤ずきんちゃん、甘い顔した狼さんは腹を空かせて君を食べる瞬間を今か今かと狙ってるんですよとは言い難く、無難に「なら鷹村さんの素行の悪さをどうにかしてほしいね」などと嘯いてみれば、「そうですね」とクスクス笑うもんだから(お前ってば少女か!乙女か!)と、想わず突っ込みそうになるのを必死に抑え「まったく困ったもんだよ」と言葉を返す。(本当に困らされてるのはお前の方なんだけど)まぁ、うん。しょうがない。随分と可愛らしい返答に眩暈を覚えたがしょうがないものはしょうがないんだよ。なんていうか ほんわか のどか。

まぁ、こんな月夜も たまにはいいんじゃね?と想う俺はどうですか。





いつもみたいな つきよ(20110217)