墨村正守は、繊細を形にしたような男だ。触れて壊れるような脆さを抱えているわけではなく、彼を構成するパーツのひとつひとつが繊細さによって造られている。ひとつでは脆すぎるそれも、束になれば鋼のような強さを発揮する。正に、墨村正守という人間は、その繊細さの塊で形成されている、と、刃鳥は考えるのだ。
頼りがいがないわけではない。むしろ、その反対で正守という存在がただ其処にあるだけで、彼という人間を軸に組織はより強固なものへと機能する。夜行にとって必要不可欠な人間であると同時に、畏怖でもあり、刃鳥にとっての支えでも、ある。けれども誰にとっても必要な存在であればある程に、彼は、孤独でもあるのだ。(その孤独に触れていいのは、きっと、彼が最も愛し憎む『弟』だけなのだろう。ただ、残念なことに『弟』だけに与えられた特権に、当事者である良守だけが気づかないだけで、あって。)かつての、時の権力者がそうであったように。彼の、『墨村』の事情がそうであるよう、に。居場所のない者を受け入れる器の大きさに目を奪われがちだが、本当は彼が一番自分の為の居場所を欲しかったのではないかと、勘繰ってしまうのは女特有の悪い癖なのかもしれないと、刃鳥は自嘲することで彼についての思考を無理やりに、遮断した。





誰か為に、と云える 嘘(20091220)