「俺 ヒルダのこと嫌いじゃねぇよ」
世間的にはヒルダの方が男鹿を振り回しているように想われがちだが、実際は違う。男鹿の突拍子もない言動に振り回されるのは常にヒルダの方なのだということはあまり知られていない。(そんなこと、知られても困るが。)今日も今日とて、昼休み。学校の屋上で昼食をとりつつ坊ちゃまをあやしている最中、突如、冒頭の台詞を吐きだした男鹿は、何食わぬ顔でヒルダが作った甘めの卵焼きを口に運んでいる。「うん うまい。この絶妙な甘さがなんともいえないんだよな。」と、パクパクと弁当を食す男鹿はフリーズしたヒルダに気づかない。ついでに、一緒に弁当を食べていた古市の間抜け顔にも気づかない。男鹿の膝の上で嬉しそうに戯れる坊ちゃまも固まったヒルダと古市に気づかない。ゆるやかな一時を過ごす倖せそうな父と子は二人の豹変にまるで気づかない。というか、男鹿の真意が掴めない。突然の「嫌いじゃねぇよ」発言は一体どこからやってきたのか。固まったヒルダをよそに、男鹿をよく知る古市は尋常ではないほどに焦っている。捻くれ者の男鹿は昔から好きなものを好きと伝えることが苦手で、つい「嫌いじゃねぇよ」と答えをはぐらかしてしまう癖があるのだ(そんなところも可愛いのだと古市は常々想っている)。本人は意図していないが、今の『嫌いじゃない』発言は、イコール『好き』ということに変換可能なのである。可能なのである・・というか、好き以外の何物でもないのである。鈍感を極めた天の邪鬼の男鹿の心理をヒルダがまだ理解しきれてないのが、せめもの救いなのかもしれないが。それでも!これが、冷静でいられようか?!爆弾発言をした本人はのほほんとしているが、無意識による男鹿の発言のせいで蚊帳の外に追い出されてしまった古市はたまったものではない。おまけに、ヒルダに対しての発言なのに、ちょっとばかりキュンとしてしまった自分が腹立たしい。てめぇ!人を振り回すだけ振り回しといてふざけるんじゃねぇぇえっ!!と、古市の心の叫びが通じたのか。ようやく異変に気付いた男鹿は、ギクシャクした二人を見て不可思議そうに首をかしげるので あった。





きみがすきです なんてね(20110218)