心臓に刻まれた痛みが確かにそこにあった。本来ならば。あの手は花を摘み、人を慈しみ、抱きしめる為に存在する筈だったのだろう。少なくとも剣を振う為にあるものではなかったことを九郎は知っている。かつては滑らかな曲線を描いていたであろう指先は、刀傷で彩られ節くれ立ち彼女の痛みや苦しみを克明に告げているようで 痛々しい。けれども、望美はそれを誇る。ありのままの自分を受け入れ運命に立ち向かおうとするのだ。望美の手は女のそれではない。戦う者の、命を知る者の指だ。決して美しくないそれを九郎は守りたいと望んでいる。理由など分からない。ただ、望美に刻まれた痛みがどうしようにもなく九郎を駆り立てる。生まれくる感情に追いつけないまま、彼女の傷を何よりも代え難く愛おしく 想うのだ。
りゆうはひつようですか(九郎と望美 20110224/アンナアベル)