伏せた睫毛の長さに瞳を奪われる。何を考えているのか掴みにくい、口数が少なくて表情の乏しい男のさりげない所作に、ドキリとさせられることを きっと ケンシロウは知らない。他人へと与える影響を理解していないどころか自覚すらないのだろうから。そのくせ、誰も彼もを魅了し釘付けにする。本当にずるい。なんでお前に振り回されなきゃならないんだと憤りたくもなるけど、なんだかんだでこいつは俺の恩人に変わりはないわけで。そう想うと、訳のわからない感情に振り回される苛立ちをケンシロウにぶつけることはし難い。といって、無碍にすることも出来ない。脳味噌がぐるぐると渦巻いているのがわかる。そんな俺の気も知らずに、相も変わらず何を考えているのか分からないケンシロウの瞳は伏せられたままで、その色を読み取ることが出来ない(その瞳を見たところでケンシロウの感情を読み取ることは難しいけど)。何だか無性に落ち着かない。どうしたいのか分からないままそわそわしっぱなし。本当にどうしてくれるんだよ。タチの悪い奴め。と、気づけばケンシロウが感情の掴めない表情で俺を見ていた。悶々とした俺の視線を感じてだか何だかはしれないが、伏せていた瞳が合う。ほら。たったそれだけのことで、こんなにも心臓が高鳴りやがる。壊れるんじゃないかって想うくらいに激しい鼓動に耳を塞ぎたくもなる。嗚呼、もう!いい加減にしてくれっ!半ば、自暴自棄に陥りそうになった俺に対して「レイ?」と。リンやバットの名を呼ぶみたいに、いつもよりも幾分優しい響きのするの声色で俺のそれを呼ぶもんだから、悶々と憤っていた感情が暴発しそうになっても仕方ないってもんだろうよ!嗚呼 くそ!きっと異常なくらい俺の顔は真っ赤に染まってる筈だ。そんな俺を見て「調子が悪いのか」と身を乗り出そうとするケンシロウに、大丈夫だと必死に云い聞かせる。説得力ないだろうが一定ラインを越えられたら理性が弾け飛ぶ自信がある(そんな自信 欲しくもなかった)。今 近づかれたら何をしでかすか分からない。危ない。こいつとは対等でいたいんだ。共に過ごした時間は短いが、親友と誇れるくらい、それくらい対等でありたい。あいつの隣にい続けたい。だからこそ、衝動のまま壊すわけにはいかない。なのに、そんなナケナシの俺の理性にケンシロウは揺すぶりをかける。無表情のままのくせして、心持、心配そうに眉を潜めるケンシロウの長い睫毛、よく見りゃ少し震えてないか?知ってる。あいつはこう見えても優しい奴なんだ。痛みを知る奴なんだよ。本当に、もう、勘弁してくれよ。何度俺の心臓を鷲掴みにすれあ気が済むんだ。ドキン ドキン うるせぇったらありゃしねぇ!嗚呼 くそ!振り回したかと想えば悪戯に掻き乱してお前は小悪魔かと叫びたい。ケンシロウ!俺はお前のことなんて好きだけど好きじゃないぜ!そういう意味での好きじゃない。ただ 気になるだけ。それだけ、それだけだっての!(頼むから これ以上俺を煽るような真似はしないでくれ!)





昼を乞う(レイとケン 20110307/アンナアベル)