不安が、消えない。
あの笑顔が怖い。自分を慕う(本当は「慕う振り」をしているだけなのでは?という疑心暗鬼が消えない)あの笑顔の裏で、何を考えているのか分からない彼の、だから、呼び方が分からない。名前を知らない訳じゃないし、分からない振りをしていわけでもなく、何と呼べばいいのか分からないままずるずると先延ばししてしまったが為に、驚いたことに俺は未だに彼の名前を呼んだことがないのだ。(それに関して、あいつが何も云わないのも悪い。「こいつ」や「お前」じゃなく名前で呼んでくれと、いつものような胡散臭い笑顔を貼り付けたまま云ってくれれば、現状を打破出来るのにと逆恨みもいいところだと呆れるしかない自分がほとほと嫌になる)
いい年した人間が、たかが名前のひとつやふたつで何をうじうじしているんだと笑い話にもなりはしないが、それでもそんなもので距離感が変わるなどと馬鹿げたことを真剣に考えているあたり、本当の馬鹿野郎はあいつじゃなくて自分自身だと言葉を失い、いつからこんなにも弱くなってしまったのだろうと嘆きたくもなる。(強くなければならなかった。だから強くあろうとした。縋る腕はなく独りで生きてゆくための強さを、と必死に追い求めたものが実は偽者だったのだと、本当は弱く脆い自分に蓋をしていただけなのだと、彼と出逢ってから知りたくもなかった現実を突きつけられるばかりなのだ)
不安が消えないのは、彼がいつ自分の元から去ってしまうのだろうかと恐怖を覚えるからだ。あの笑顔を浮かべたまま、「さようなら」と突き放される恐怖を受け入れることが出来ないから。無条件に傍にいて、欲しい言葉や優しさを与えてくれる彼に返せるものが何もないから、だからこそそれほどまでに奥深くまで刻まれてしまった存在をどう呼べばいいのかなんて、名称が、分からないのだ。
分からない振りはいつまで通用する?(20091217)
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