「サビは、善透様の笑った顔が見たいだけなのに!」
綿貫なる者には何度も見せているのに、どうしてサビには見せて下さらないのですか、と。噛み付かんばかりに善透を問い詰めるサビ丸は、自分が今、敬愛を超越し必然的であるかのように恋情を抱いてしまった主に対して、無理無体を晒していることに気づいていない。どうして。何故。今の今まで、勤めて考えない振りをしてきたけれど、も。何とも胡散臭い目付きの悪い新参者に対して、善透がかける言葉やさりげない気配りだとかそういったものが、サビ丸の自尊心を深く傷つけることを一向に理解されないばかりか、邪魔者のように扱われる態度とか。そういったものが溜まりにたまり、ついに不満が爆発してしまったのだ。行き過ぎた忠誠が、善透の重荷になっている現実に、気づかない振りを続けていることが気に喰わないのか、それとも。自分の存在が鬱陶しすぎて、認めてくれないのか。困ったような、怒ったような、今にも泣いてしまいそうな。そんな、善透の淋しい側面しかは知らないサビ丸は、自分だけに笑顔をくれない善透が、酷く恨めしくて苛立ってならないのだ。理解されない苦痛をいくら訴えかけたところで、肉体が邪魔すぎる。境界線であるかのような隔たりに、打ちのめされてしまう。彼の世界が欲しい。彼の全てが欲しい。他を望むつもりなんて、これっぽちもありはしないのだ。ただ、ただ、彼だけを、望んでいるだけなのに。なのに、どうして世界は、彼は、サビ丸に優しくないのだろう?はじめ、は。傍にあれれば、それだけで満たされていた筈だった。傍で、善透を感じるたびに、世界は美しく色付いて見えた筈なのに。なのに。いつから、現状に満足できなくなってしまったのだろう、と。止まらない慟哭に、お決まりのように眉を顰める善透の姿を見て、サビ丸は主を恨むどころか理解されないことに対して発狂すら出来ない自分を、憎んだ。
本末転倒です(この情こそが、罪なのでしょう。自覚があればあるほどに貴方の赦しは、遠のくのでしょう。)(20091225)
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