神楽は知っている。この男が決して「NO」とはいないこと、を。殺伐とした世界で生きている癖になんでも馬鹿みたいに懐に受け入れて抱え込む。敵でも仇でも良いところしか見ようよしない。それどころか、手を差し伸べるのだ。当たり前のように差し出されたその手を斬りつけられようが男は後悔なんてしない。どうしようにもない 馬鹿。そんな馬鹿の周りにいる野暮ったい連中がどれほどまでにやきもちしているのかなんてきっと理解していないし理解する気もないのだろう。その証拠にたったひとりの馬鹿の為に皆がみんな振り回されている。そんな男のもっともずるいとこが「NO」と云わない代わりに「YES」とも云わないことだ。女好きを自負しながら女が最も嫌う言動を素で行うのだから始末に負えない。そして、本人もまた自分の行動原理に気づいていない。なのに、女はそんな馬鹿な男を愛しいと想ってしまうのだ。モテナイと嘆く姿をよく見かけるが、その理由が自分のせいだって気づいてないだけでしょと、神楽はついつい冷ややかな視線を送ってしまう。矢印が見えるくらいに本当は誰もが男のことを見つめているのに。ただ、「YES」と首を縦に触るだけで欲しいものを手に入れることが出来るのに。馬鹿な男。本当に馬鹿な ゴリラ。男は死ぬまで誰かを受け入れ続けるのだろう。誰かの倖福を祈り続けるのだろう。誰かの為に生き続けるの だろう。そんなことを考えていた神楽は腹立たしいのか泣きたいのか分からなくなって目の前にいるゴリラのような男にしがみ付いた。(ならば、私が願ったらどこまで受け入れてくれるアル?)
至近距離で覗きこんだ眼球は気持ちが悪いくらいに澄んでいる。





哀しい目隠し(20120202)