願いは、美しいものだった。羨むほどに、美しく、あるべきだったのに。
手が届いてしまいそうだと、壊してしまいそうだと背筋が震えたのはいつも以上に無防備な善透が、甘えるようにサビ丸の背中に体を預けてきたからだ。突然の出来事に、どうしたのかと問いかける事さえ出来ないまま呼吸の仕方を忘れてしまった肺は、陸に打ち上げられた魚のように酸素を求めるのだが、過呼吸気味なそれに一連の動作を求めることは不可能で今にも叫びだしたい衝動に駆られる。いつも以上に近い距離。いつも以上にはっきりと伝わる感触。いつも以上に、高鳴る心臓。緊張のあまり、だらだらと汗の止まらない自分をこの人はどう想っているのだろうかと考えると、それだけで、羞恥のあまり何も受け付けなくなる。五月蠅いくらいに鳴り響く心音が世界を満たし、自分がこんなにもこの人に恋焦がれていることを知ってやっているのかと問い詰めたくもなったが、そうすれば逃げてしまうのは必定で突き放したかと想えば気まぐれで甘える、まるで気ままな猫のような人なのだ。
そんなサビ丸の葛藤を知ってか知らずか、「お前の背中 あったかい」と更に体を近づける仕草に、理性はあと何秒持つだろうかと、困ったことに衝動のまま襲い掛かりこの人をぐちゃぐちゃに犯してしまう自信が過分に、ある。(いっそこのまま理性を手放して美しい貴方を、啼かせてしまおうか)
欲望が名を変える(20091217)
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