美しい夢は瞼の向こう側に消えてしまう。残像もまた、消えたそれを追いかけるように足早に去ってゆくから恋しさを覚えるのだろうか。サンジは夢見ない。が。サンジは時々、ウソップのことを夢の世界の住人のようだと感じることがある。夢を見ない自分が、ウソップにたいして訳の分からない感情を抱くことは存分に矛盾を孕んでいると承知しているが、それはあくまでサンジの脳内で描かれる虚像の話なのでそこに理屈も屁理屈も介入する云われは ない(筈だ)。兎にも角にも儚いのだ、と云ったなら彼は怒りを露にするのだろうか。それとも、あるいは。淋しげな笑みを浮かべるのだろうか。手を伸ばしても、ウソップへの距離は淡くて遠い。W7以降、その傾向はより顕著であり、自分から進んでスキンシップを取りにいくにも関わらず(本来なら自分からスキンシップをとるような男ではないのだ 俺は!)サンジはウソップが足りないなと想ってしまうのだ。誰にも彼にも好かれるウソップを拘束するのは難関である。片時も傍を離れようとしないルフィを筆頭に、以前にも増して彼を囲む輪は強靭になっている。まるで、二度と逃してやらないと云っているみたいに。裏切らないで、切り捨てないでと情に篤いウソップを試しているみたいに。(そして、サンジもまた無意識ではあるが名を呼ぶことでウソップが何処にも行かないように縛りつけようとしている)その度に、ウソップの眼が少しばかり哀しそうに揺れることを連中が理解しているかは知れないし、それが関係しているのかも定かではないが明らかに自分の名を呼ぶ回数が減ったような気がする。もしかしたらそれが淋しいのかもしれないとサンジは考える。だから、彼を夢の住人だのと仮定する訳の分からない思考に浸ってしまうのかもしれないと思案することで、サンジは、ウソップという美しい夢を縫いとめる言い訳を探すのだ。





貴方を縛る糸は、細く(20100107)