泣いてしまえるな、という自覚はある。大の男が女々しく泣くなど、それこそみっともないことこの上ないので涙を見せるような真似はしないがそれでもゾロはウソップに泣かされる自信がある。一度目は、はじめての出逢いだった。ガクガクと膝を笑わせながら勇敢に立ち向かおうとする姿と、どうしようにもないお人よしな屁理屈はゾロの世界観をこれでもかと震わせたものだ。二度目は、生涯忘れることなど出来ないだろうミホークとの戦いだろう。あの時のウソップの涙は負った傷よりも痛かった。馬鹿、馬鹿と繰り返しながらも自分の為に泣き崩れるウソップをよそに、そうまでして己の悼む人間は多分彼をおいていないのだろうなとぼんやりと想ったことは秘密だが、傷ついた仲間を想い、誰かの為に誰かの分まで泣ける優しさを捨てないウソップには一生かかっても叶わないと想い知らされた瞬間でもある。それからというもの、己の弱さに打ち震えるウソップを見るたびに、誰かの為に正義を貫こうとする心意気を感じるたびに、笑うことを忘れない彼に、癒しと許しを与える彼を感じるたびにその都度ゾロは泣きたくなった。自分の為に泣けない馬鹿の為に、泣いてしまいたくなるほどに愛おしいと想ったのだ。ゾロは時々考える。華奢な背を張って、勇敢であろうとするウソップを、自分の野望すら越えてゆくウソップをいつまで傍らで見つめ続けることが出来るのだろうか、と。出来るのならずっとその背を見ていたい。立ち止まったときに背中を押せるような距離で歩いていきたいと望む、夢。だからこそ、もしかしたらを仮定する上で必ずと云ってもいいほどにぶちあたるウソップが存在しないかもしれないという不確定な未来に、いつだって ゾロは泣いてしまいたくなるのだ。
泣かせ上手な彼(20100107)
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