あの人は無意識なんでしょうけど。大きな体を縮こませて、「お妙さんの愛が痛い」などと子供のように泣き喚く姿に真撰組局長の肩書や威厳なんてものは微塵も感じないのだけれどもそんな情けない姿が可愛らしく母性本能を掻きたてられるような愛しさを覚えてしまうのは俗に云う惚れた弱みという奴なんでしょうか。黙っていれば男前の美丈夫でありながら、それを否定する言動を繰り返すものだから「ゴリラ」だなんて渾名で呼ばれてしまうことに気づけないどうしようにもないお人よしは、今日も今日とて妙の拳に撃沈されて涙に暮れている。そんなあの人を介抱するのは密かに自分だけの特権だと想っているおりょうを見る妙の顔は、まるで苦虫を潰したように引き攣っていて『そこは私の居場所よ』と無言のままに訴えかけてくるものだから、興味ないように装いながら嫉妬するだなんて不器用にも程があるわと一向に距離の縮まらないじれったい二人に失笑してしまう。(暴力なんてやめればいいのに。あの人を受け入れる覚悟がありながら素直になれないなんて、余裕があるのだが何だかは知れないけれどいつまであの人がお妙のものなんだって勘違いは通用しないのよ?あの人を好いている相手はたくさんいるのだから、いつ横から掻っ攫われるか分かったもんじゃないっていうのに気づいたときには全てが遅すぎましたじゃお妙自身があまりにも不憫じゃない!あっ。私もあの人を慕っている一人ですから油断しないでね、と。)微笑みを浮かべることで、おりょうは妙にはっぱをかけるのだ。
女に生まれたからには誰だって心から好いた相手の倖せを願うものでしょう?倖せにしたいし倖せになってもらいたいじゃない。だからこそ、お妙があの人の不幸を望むのなら私が奪っちゃうわよ?え?見掛けによらず欲深いって?お妙ったら!今更何云ってるのよ。

そりゃそうよ、貴女も私も女で、女は 世界で一番欲張りな生き物なんですもの。





世界で一番欲張りな生き物(20100107)