誰かの為に泣いたことは、あっただろうか。必要に迫られた際に、口先だけでなく誰かの為に体を張ることは、出来るだろうか。
自分で自分を守ることしか知らなかった善透が、今まで形成してきた必要最小限の価値しか抱かないそんな世界は、サビ丸なるたったひとりの男の出現により、脆くも破綻の一途を辿る現実をどこか他人事のように受け止めている自分がいる一方で、必死になって押し殺してきた感情が、たったひとりの為に浮上してゆく様に戸惑いを隠しきれずにいる。縮こまることしか出来ない自分にたいして、「大丈夫」と微笑みひとつで背中を押す彼に「ありがとう」すら伝えることが出来ず、嫌味や文句をぶつけてしまう素直になりきれない自分自身がい加減に苛立たしくもなって歯痒くもあり、そっけない態度を取りつつも呆れられはしないだろうかと、不安になることの愚かしい循環を繰り返す日常が一体いつまで続くのかと己の強情さに言葉を失いうんざりもする。
例えばの話、自分の為に身を挺する男の為に一体何が出来るだろうかと思案することのこの意味を、どう解釈すればよいのだろう?必要とされる喜びを、必要とする嬉しさを、どうしたら伝えることが出来るのだろう?
居場所に縋りついてしまった善透は、今更ながらに、そんなことばかりを考えている。
縋りつく(世界の破綻から僕を救ってくれ!)(20091218)
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