あの人の無邪気さは心臓に悪い。自分とたいして変わらぬ体格のいい男を『可愛い』などと想ってしまう次点で頭の螺子が数本足りない状況であるというのに、それに加え腐った脳味噌もさることながらそれを平然と受け入れてしまう自分自身に困惑を隠しきれずにいる。何処をどう見ても十人中十人があの人を男の中の男だと認めるだろう。なのに、どこをどうしたら『可愛い』などと腐った発言が脳内を駆け巡るのか。蔭間のようなか弱さや線の細さなど皆無である。副長や一番隊隊長のような美麗な容姿を持っているわけでもない。(隊で一番二番を誇る容姿の彼等が、揃いも揃ってあの人に傾倒しきっているのだから世も末だ)誇れるものといったら、馬鹿のように咲かす笑顔と呆れるくらいの人柄の良さと海のように広い器のでかさぐらいで、男前な容姿ではあるが倒立しても『可愛い』には結びつかない。なのに、『可愛い』のだ。どうしようにもなく『愛らしい』のだ。組の中でもあの人に陶酔する輩は多く(「多く」とは語弊で、大半の隊士があの人に首っ丈状態になっている)能天気な笑顔を浮かべたまま笑顔で呼ばれてみろ。ほんわかと癒されたかと想えば、酷いときにはまさかの前屈み状態に追い込まれる有様があるなどと口が裂けても云えたものではない。(男相手だ!男!しかもゴリラに似たいかつい男だぞ?!)大の大人が、しかも男がだ。揃いも揃って『ゴリラに恋情めいた感情を抱いています』などと何をどうとち狂えばそんな状況に追い込まれているのか理解できないと、原田はそんな輩を尻目に傍観者を装ってはいるが実は立派な当事者の一人でもある。しかも付き合いが長いだけに破壊力は半端なものではない。嗚呼と感嘆する。いつの時代も、固定観念の崩壊とは凄まじいものがある。
降参です認めますよ あんたは可愛いお人です(20100107)
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