いつから欲しいものを数えなくなったのだろう。指折り数えては、期待に胸を躍らせていたあの頃に哀愁を覚えても戻りたいと想わなくなったのは。大義名分は何処かに置き忘れてしまった。どこまで流されれば染まらずにいられるのかすら分からない。なのに肝心な何かを自暴自棄になった高杉は見失っている。だから。例えば、もし。もう一度あの人の声を耳にしてしまったなら、その瞬間に今ある自分像が崩壊する自信がある。根拠はない。それでも、ぼろぼろと形を失う菓子のように内側からあっけなく崩れ去る自信が高杉にはある。そして、それは、恐ろしいことにあの人に似た男にも通用することの危惧さを意味しているのだ。賛同者はいても理解者はいない。常に付きまとう孤独を疎ましく想いながらも、それを愛でる矛盾にいつまで気づかぬ振りが通用するのだろう。振り返ればどこにもでも潜んでいる矛盾をいつまで見過ごすことが出来るのだろう。これではまるで均衡が破られるのを待っているようだと自嘲を浮かべることの不可解さが、高杉をたまらなく高揚させる。欲している。激しく。細胞のひとつひとつから男への思念が溢れている。故に、首筋を這う刃先の感触に戦慄すると同時に激しく欲情していることを。この男にだけは自分の全てを理解して欲しいなどととち狂った情愛を抱いていることを。誰よりも理解されたいと願うのだろうか。
憧憬を抱く(20100108)
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