突然 「もっと、甘えて下さい。」と、大きく広げた両の手を善透に向かって差し出した男は、「サビは、貴方の為に生まれてきたのです。だから、この手も足も全ては貴方だけのものなのです。」と豪語する。何を頓珍漢なことを云っているのだと、その言葉と行動の意図を図りかね、尻込みする善透の右手を強引に引っ張ったサビ丸は、腕の中に主と慕う彼を閉じ込めることに成功したことで、笑みを形作っていた唇を美しく歪めた。(「何すんだ!」と手檻の中で激しく抵抗する善透だが、如何せん非力な彼が此処から脱出することなど出来るはずもなく、また意固地になってでもやっと捕まえることの出来た彼を、手放したりなどしてやらないのだ。)
何故こんなことをしたのかと問われれば、『たったひとりで生きていくのだと勘違いをしている彼を甘やかす方法が、これしか想い浮かばなかった』というのが解答だが、多分それはありきたりな模範解答であって、本当はそれと異なる意味合いが強く含まれているであろう答えを過分に自覚しているサビ丸は、自嘲を浮かべることで自分の行動を正当化させようとする。
甘えの下手な彼は、温もりに弱く優しさに飢えている。それを手っ取り早く自覚させる為にと、力任せの抱擁と結びつけるあたり、任務を差し置いて欲に忠実すぎる自分に後ろめたさを覚えないわけではない。だが、今は叶わなくても、いずれは彼の孤独を満たすことの赦される立ち位置を望んでいる。全てを彼の為に捧げることこそが、サビ丸の唯一の「願い」なのだ。
じたばたと暴れていた善透だが、力では叶わないのだと抵抗を諦め大人しくサビ丸に身を委ねている。それに満足したサビ丸は、柔らかな黒髪に触れるだけの口付けをおとし、「サビは善透様が大好きです」と耳元で囁いた。出逢った当初であったなら、抵抗の限りを尽くされ、罵倒を浴びたであろうこの行為も、大人しく受け入れる彼の、羞恥からか困ったように眉を顰めながら頬を赤く染める様を愛おしく想いながら、孤独と戦う善透を抱きしめる。
強がりな彼のすべてを手中に収める日は、多分、遠いようで 近いはずだ。
甘やかしているようでいて、本当は僕の方が貴方に甘えているのです(20091218)
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