セックスがしたい。男の中の男を組み敷いて屈服させる。喘がせて腰を叩きつける。卑猥な言葉を吐き捨てて羞恥を煽りたい。女のように抱かれるお前は俺にどんな顔を見せるのか。どんな声を出して俺を受け入れるのか(受け入れさせられる、の間違いか)。男相手に突っ込むわけだから女のように優しく扱う必要性がない分、乱暴であればあるほどいい。相手は桔平だ。桔平に、己の分身のような彼に手加減する必要性は存在しない。獣が、獣を喰らう。甘美な夢物語は千歳を幸福へと誘う。これ以上の快楽は存在しないのではなかろうかと思案することの自由さは、恐ろしいほどの解放感に満ち溢れている。泣かせたい。善がらせたい。「千歳」、と。その唇から自分以外の名前を奪い去りたい。その脳髄から自分以外の存在を抹消させてやりたい。どこから湧き出てくるのか不可思議なほどに強烈な支配感は、千歳の中で荒い呼吸を繰り返しながら「その時」の訪れを待ち侘びている。「あの日」から、只管に待ちわび続けている。その様は獲物を目前に呼吸を殺す獣、そのものだ。
不安なのである。たまらなく。自信がないと云いきってもいい。桔平の罪の意識を煽り続ける右目の喪失から得た絆は、絶対であるかのように想えてあまりにも脆く崩れやすい繋がりしか形成出来なかった。故に、右目以外の繋がりがあれば、より強固に、より絶対的に、より確信的に桔平を自分に縛り付けることが出来るだろうという安直さから千歳は桔平を、橘桔平を構成する全てを細胞単位から欲している。心の奥底から求めている。盲目過ぎる欲に、理性が追いつけないほどに。桔平を手に入れる為ならば、執着心以外の何かもを簡単に捨ててやるよと断言出来てしまえるほど に。
嗚呼 桔平!お前とテニスをしたい!お前と打ち合いたい!力の限り、もてる全てを持ってお前と競い合いたい!失った右目を取り戻したい!お前の隣が欲しい!お前が足りない!足りなすぎて息苦しい!お前が!お前が!お前が!お前がっ!無限大に広がる千歳の尽きない望みの中で、それでも強固に願いつつけるそれはたったの ひとつだ。
桔平 俺はお前と体を繋げたい!
(奪うような恋がしたい。燃えるような肢体を愛したい。俺に溺れたお前を骨が砕けるほどに 抱きしめてやりたい!)
獣を喰らう、獣(20100113)
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