己の耳が捉える彼の旋律は身震いを覚えるほどに 美しい。
はじまりはいつだったのかなど覚えてはいない。気づいたときには既にはじまっていた と、いうことは。はじめてあった瞬間からあの男に捕らわれていたということになるのだろうかと思考することの自由さは高杉を愉悦させる。男の口にする正義はいつだって砂糖を塗した菓子のように甘く魅惑的である。触れれば簡単に形を失う脆さや緩やかな窒息にも似た光悦さ、男を彩る器でさえも鮮烈に心臓を突き刺して離さない凶器にも似ている。それ故か何なのか。蜜に群がる虫のように集う輩の大半は心底男の志に男自身に惚れ込み崇拝する者が後を絶たず、自分もまたそんな男に捕らわれた輩の一人であるのだろうかと夢想に耽る瞬間 高杉を襲う身震いは甘美であり男を想い零す吐息でさえも甘いのだろう。
己の耳が捉える彼の旋律は身震いを覚えるほどに 美しい。その唇が唱える正義はおそらく睦言にも似た痺れを伴っているに違いないと夢に浸るかのようなそれを名称付けるのなら、どうか。願いと呼ぶことが 出来るのなら。





うつくしきのはじまりを知っている(20100126)