望むことを諦めている。高杉という男は壊すことは出来ても新たに何かを望むことが出来ない男である。それを不憫に想いながらも少しだけ羨望を覚えるのは、自分もまた彼の立場にあったとき果たして捨てられないものを斬り捨てる決断が出来るだろうかと迷いを覚えてしまうからだ。おそらく無理であろうと即決出来るくらいには万斉はこの世界に失望していない。嫌悪はしているが綺麗に捨て去るには大切なものがあり守りたいものがある。白夜叉ではないがこの世界には捨て去りきれないものが確かにあるのだ。(『変革』とは随分と手前勝手の都合のいい言葉なのだなと自嘲する。何かを成す為には理由が必要なように理屈も必要であるのだと主張することで誤魔化すことを覚えた自分には『何故壊そうとするのか』との問いかけに上手い返答を未だ持ち合わせてはいない。故に、いつだって思考と言動の噛み合わずそれこそ矛盾以外の何者でもないのではないかと苦い笑みさえ浮かばないのだ。)
望むことを諦めるということは、ある意味死と同義なのではなかろうかと万斉は考える。ならばそれを否定する高杉は生者であり死者であるのだろう。生ける屍のような眼に映る世界を美しいと呼ぶ高杉の情の在り処を想い描くとする。肯定されるべき過去でしか生きられない窮屈さを儚さと称するとき、残骸である現在を未来を崩壊と云う名の境界線で彩ろうとするそれを、その中で生きる人々を、高杉は浮世の夢と恋い慕うのだろうか。





過去と生きる 男(20100126)